ログインそれは、愛し合うというにはあまりにも一方的で、けれど蹂躙と呼ぶにはあまりにも互いの求めているものが合致した、奇妙な交わりだった。
湊は、私の中にある「他の男の気配」を徹底的に排除しようとしていた。 私の視界を自分の顔だけで埋め尽くし、私の声を自分の名前だけで染め上げようとする。 何度も何度も、限界を超えて求められる。 波のように押し寄せる感覚に、私は自分の輪郭が溶けていくのを感じた。 自分が誰なのか、ここがどこなのかも曖昧になる。 ただ、目の前の男の熱だけが真実だった。「……朱里、こっちを見ろ」 彼が、私の腰を強く掴み、逃げ場を塞ぐように身体を押し付けてくる。 その全身から発せられる高熱と、痛いほどの力が、彼の余裕のなさを物語っていた。 言葉でどれだけ否定しても、不安でたまらないのだ。私がふっと消えてしまうのではないかと。 そんな彼の、傷ついた獣のような怯えを感じ取った瞬間、私の胸の奥からどうしようもない愛おしさが込み上げてきた。 スマートなエスコートなんていらない。 私は、この不器用で、必死な熱だけが欲しい。「……湊」 私は汗ばんだ彼の首に腕を回し、熱に潤んだ瞳で彼を見つめ返した。「……欲しいの。私を、全部あなたのものにして」 私は、彼にすがるようにそう求めていた。 身体だけでなく、心まで彼に委ねるように。 その言葉を聞いた瞬間、湊の表情がくしゃりと歪んだ。 まるで、迷子が親を見つけた時のような、泣き出しそうな顔で。「……ああ、朱里……!」 彼が一気に、最奥まで貫いた。「あ……ッ、んぁあッ!」 身体が裂けるような衝撃と、それを上回る充足感。 空っぽだった私の器が、彼の熱で満たされていく。 痛い。苦しい。でも、嬉しい。 彼と繋がっている。 契約書の文字じゃない。言「……お前は、物好きだな」 湊が苦笑する気配が背中越しに伝わってきた。「征司の方が、ずっとスマートで、優しいぞ。……あっちに行けば、お姫様のように扱ってもらえる」「お姫様なんて柄じゃないもの。……私は、泥だらけになって働くのが好きなの」 私は彼のお腹の前で手を組んで、ぎゅっと力を込めた。「それに……私は知ってるよ。あなたが、本当は優しいってこと」「……買いかぶりだ」「ううん。……最初の夜、私のためにドレスを用意してくれた。……温室のバラを守ろうとして怒ったのも、お母様への愛があったからでしょ? ……それに今だって、私の足を気にしてくれてる」 不器用な優しさ。 分かりにくいし、痛みを伴うこともあるけれど、そこには確かに体温がある。「私は、表面だけの優しさより、あなたのその不器用な体温の方が好きよ」 好き。 言ってしまった。 契約上の「婚約者」としてのセリフではない。 茅野朱里としての、本心からの言葉。 湊はしばらく無言だった。 部屋の時計の秒針だけが、チクタクと時を刻んでいく。 やがて、彼は私の腕に自分の手を重ねた。 そして、ゆっくりと私の方へ向き直った。 月明かりに照らされた彼の顔は、穏やかで、そして真剣だった。「……朱里」 彼は私の頬に手を添えた。 今度は、傷つけるためでも、所有印をつけるためでもなく、壊れ物を扱うように優しく。「契約書を、書き換える」「え……?」「『業務外の私的接触禁止』……あの条項は、撤回する」 心臓が跳ねた。 それは、どういう意味?「これからは……業務外でも、僕のそばにいろ」
嵐が過ぎ去ったあとの寝室は、重苦しい静寂に包まれていた。 乱れたシーツ。床に散らばった衣服。 そして、冷房の風音だけが微かに聞こえる。 湊は、私の上に覆いかぶさったまま、動かなかった。 彼の重みが、心地よい重石となって私をベッドに縫い止めている。 彼の呼吸は、まだ少し荒いけれど、先ほどまでの激情は嘘のように引いていた。 私は、そっと彼の手を取った。 汗ばんだ、大きな手。 指を絡ませると、彼が弱々しく握り返してくる。「……足」 彼の胸元から、くぐもった声が聞こえた。「え?」「……足、痛かったんだろう」 湊がのろのろと顔を上げた。 汗に濡れた前髪が額に張り付いている。その瞳は、憑き物が落ちたように穏やかで、そしてどこかバツが悪そうだった。「征司が……氷を持ってきたのは、お前の足が痛そうだったからだと言っていた」「……うん。ヒールで走り回ったから、少し」「……気づかなかった」 湊は、悔しそうに唇を噛んだ。「僕は、お前を『装飾品』として立たせることばかり考えて……お前が痛みを感じていることに、気づかなかった」 彼の視線が、私の足首に向けられた。 そこにはまだ、征司に借りたハンカチで冷やした痕跡は残っていないけれど、彼の目には痛々しいものとして映っているのかもしれない。 彼の指先が、そっと私の足首に触れる。熱を持った手が、じんじんとする患部を撫でるように包み込んだ。「……ごめん」 小さな、消え入りそうな謝罪。 あの傲慢なCEOの口から出たとは信じがたい言葉に、私は目を見開いた。「……あいつの言う通りだ。僕は、近くにいる人間を傷つけることしかできない」 湊は私から身を離し、ベッドの端に腰掛けた。 その背中は、世界中の孤独
それは、愛し合うというにはあまりにも一方的で、けれど蹂躙と呼ぶにはあまりにも互いの求めているものが合致した、奇妙な交わりだった。 湊は、私の中にある「他の男の気配」を徹底的に排除しようとしていた。 私の視界を自分の顔だけで埋め尽くし、私の声を自分の名前だけで染め上げようとする。 何度も何度も、限界を超えて求められる。 波のように押し寄せる感覚に、私は自分の輪郭が溶けていくのを感じた。 自分が誰なのか、ここがどこなのかも曖昧になる。 ただ、目の前の男の熱だけが真実だった。「……朱里、こっちを見ろ」 彼が、私の腰を強く掴み、逃げ場を塞ぐように身体を押し付けてくる。 その全身から発せられる高熱と、痛いほどの力が、彼の余裕のなさを物語っていた。 言葉でどれだけ否定しても、不安でたまらないのだ。私がふっと消えてしまうのではないかと。 そんな彼の、傷ついた獣のような怯えを感じ取った瞬間、私の胸の奥からどうしようもない愛おしさが込み上げてきた。 スマートなエスコートなんていらない。 私は、この不器用で、必死な熱だけが欲しい。「……湊」 私は汗ばんだ彼の首に腕を回し、熱に潤んだ瞳で彼を見つめ返した。「……欲しいの。私を、全部あなたのものにして」 私は、彼にすがるようにそう求めていた。 身体だけでなく、心まで彼に委ねるように。 その言葉を聞いた瞬間、湊の表情がくしゃりと歪んだ。 まるで、迷子が親を見つけた時のような、泣き出しそうな顔で。「……ああ、朱里……!」 彼が一気に、最奥まで貫いた。「あ……ッ、んぁあッ!」 身体が裂けるような衝撃と、それを上回る充足感。 空っぽだった私の器が、彼の熱で満たされていく。 痛い。苦しい。でも、嬉しい。 彼と繋がっている。 契約書の文字じゃない。言
露わになった肌が、冷房の風に晒されて粟立つ。けれどすぐに、彼のごつごつとした手のひらがその冷たさを塗りつぶすように這い回った。「他の男に隙を見せ、安っぽい優しさに絆され……僕をここまで苛立たせた」 湊の手が、私の胸を強く掴む。 愛撫というにはあまりに乱雑で、けれど、指先から伝わってくるのは、彼自身の微かな震えだった。 怒っているだけじゃない。 怯えているのだ。 大切なものを、また奪われるのではないかと。 その震えが、私の胸をきゅっと締め付ける。「……湊」 私は、自由になっている足で、彼の腰に絡みついた。 彼の動きが一瞬、ぴたりと止まる。「……私は、どこにも行かない」 逃げるのではなく、受け入れるように。彼の瞳をまっすぐに見つめて、私は言った。 契約だからじゃない。300万という報酬のためでもない。 この、不器用で傷だらけの男を、一人にしたくないからだ。「征司さんがどんなに優しくても……私の婚約者は、あなただけだから」 その言葉が、彼の理性の最後のタガを外したようだった。 湊の瞳孔が開き、暗い色がさらに深まる。「……口だけなら、なんとでも言える」 彼は私を軽々と抱き上げると、寝室へと大股で歩き出した。 世界が反転し、私は彼の腕の中で揺られる。 鼻先を掠めるのは、彼の体臭と香水の混じった匂い。その男らしい香りが、私の理性を甘く溶かしていく。 キングサイズのベッドに放り出されると、沈み込む間もなく彼が覆いかぶさってきた。 スーツの上着はすでに床へ脱ぎ捨てられ、シャツのボタンも引きちぎられるように外されている。 剥き出しになった彼の熱い胸板が、私の胸に押し付けられた。 ドクン、ドクンと、互いの心臓の音がうるさいほどに重なり合う。「身体で証明しろ。……お前が、僕だけのものだと」 湊の手
リビングのフローリングには、ミッドナイトブルーのドレスが脱ぎ捨てられ、海に沈んだ抜け殻のように頼りなく横たわっていた。 大きな窓の向こうには、宝石箱をひっくり返したような東京の夜景が広がっている。けれど今の私には、そんな煌びやかな景色など目に入らない。 視界のすべてを塞いでいるのは、目の前にいる男――九龍湊の瞳だけだ。そこには、暗く濁った炎が揺らめいている。 「……っ、湊……痛い、よ……」 冷たい床に背中を押し付けられ、私は小さな悲鳴を上げた。 湊は私の両手首を片手で軽々と頭上に押さえ込み、もう片方の手で、顎を強引に上向かせる。 至近距離にある彼の顔からは、パーティー会場で見せていたあの完璧な「CEOの仮面」が剥がれ落ちていた。あるのは、嫉妬と独占欲に理性を焼かれ、余裕をなくした一人の男の素顔だけ。 「痛いか?」 腹の底に響くような低い声。 彼は私の顎を掴む指に、じわりと力を込めた。 「征司に触れられた時、お前は痛みを感じたか? ……いや、感じなかっただろうな。あいつは優しく、甘く、女の扱いに慣れている」 「……っ、だから、あれは……!」 「喋らなくていい」 私の弁解は、熱を持った唇によって強引に塞がれた。 甘さなど微塵もない。それはまるで、私の口から他の男の名前が出ないようにするための罰のようだった。 舌がこじ開けられ、内側を荒らされる。息ができない。酸素を求めてあえぐ私の声を、彼は逃さないようにすべて飲み込んでいく。 怖い。 頭のどこかで警報が鳴り響いているのに、身体の奥底では、痺れるような熱が渦を巻いて立ち上っていた。 彼のこの激しい怒りが、私に向けられた執着の裏返しだと分かってしまっているからだ。 あの温室で拒絶されてから、私たちの間にはずっと見えない壁があった。冷たく、分厚い氷の壁が。 それが今、歪んだ形ではあるけれど、確かな熱を持って私に触れている。 乱暴な痛みすらも、私の空虚だった心を埋めていくようだった。 「……は、ぁ……ッ!」 唇が離れると、銀色の糸が引き、すぐに切れた。
帰りの車内は、行きとは違う質の沈黙に満ちていた。 運転席との仕切り(パーテーション)が上げられ、後部座席は完全な密室となっている。 湊は私を抱き寄せることもなく、けれど私の手首だけは絶対に離そうとしなかった。 自分の太腿の上に私の手を固定し、親指で何度も、何度も、脈打つ血管の上をなぞっている。 その執拗な指の動きが、彼の不安定な心を雄弁に物語っていた。 マンションのエレベーターを降り、玄関のドアが閉まった瞬間だった。 ドンッ! 私は壁に押し付けられた。 靴を脱ぐ暇さえなかった。 湊の重たい身体が、覆いかぶさるように密着する。「……み、なと……?」「消毒だ」 呟くような声と共に、彼の唇が私の頬――征司が触れた場所に押し付けられた。 キスではない。噛み付くような、所有の印を刻み込むような痛み。「っ……!」「ここも、触られたか? ここは?」 彼の唇が、頬から首筋へ、そして肩へと熱く移動していく。 火傷しそうなほど熱い。 パーティーで見せていたあの冷静な仮面はどこへ行ったのか。 今の彼は、嫉妬と独占欲に理性を焼かれ、ただ本能のままに獲物を追い詰める獣そのものだった。「湊、待って……! こんなの、契約にないわ……!」 私は必死に声を絞り出した。 『業務外の私的接触は禁止』。 自分で決めたはずのルールを、彼自身が破ろうとしている。「契約?」 湊は顔を上げ、私を睨みつけた。 その瞳は、情欲と怒りで揺らめき、濡れている。「そんな紙切れ一枚で、僕の感情を縛れると思うな」 彼は私のドレスのファスナーに手をかけた。 ジジ、と布が擦れる音がして、背中が大きく開かれる。 冷たい空気に晒された肌を、彼の熱い掌が這い回る。 その温度差に、背筋がゾクリと震えた。「お前は僕のも